バリウムのまだ身のうちに暮かねる

鬼の身になつてもみよの追儺かな 節分に鬼塚ちひろは悲しかろ

日脚伸ぶなにやらものの煮ゆるらし

鬼貫の画賛の文字や春兆す

ちゃんこ鍋下戸の好める黒田武士

刃研ぐ人はマスクをしてゐたり

しぐるるや汁粉は甘いだけのもの

侘助やわかつて呉れる人はいる

山茶花の散り敷く庭に迎えられ

白障子ごしの陽差しや脇本陣

あららぎの眠り姫へと蔦枯るる

海暮れてセロリぽきりと折りしかな

俳人も商売大事寒ごやし

冬座敷匂袋と宇治十帖

製鐵の赤錆高炉冬に入る

ダーウィンも聖書も知らぬ海鼠かな

龍の玉餓鬼大将もをつたとさ

結句また独り法師や片時雨

知ることは悲しみのたね女郎花

その墓の小さなことよ曼珠沙華

薄原歩きつかれてしまひけり

気がつけば説教する側零余子飯

稲光して聞香といふあそび

鳳仙花あへて云ふなら星まはり

なんとなく不仕合わせかも赤のまま

秋鯵の走りで一献又一献

コールタール臭き枕木草の絮

学友の一人は牧師黒葡萄

酔漢も昭和生まれの二十日月

ほどほどに勝つはむつかし秋刀魚食ぶ